「スルガ物」とは...
「スルガ物」とは、2012年頃~2018年頃までスルガ銀行が一般的に属性が高いと言われる士業や上場企業のサラリーマンに対して、金利3.5%~4.5%・返済期間30年の融資をした昭和60年前後~平成初期の鉄骨造の投資1棟マンションで現在も融資継続中の物件を指す。そのプレミアム性からクレディ前川が俗称として「スルガ物(もの)」と呼んでいる。
(余談)その昔唯一の正規代理店であったコーンズが販売したフェラーリのことを流通価値の高さから「コーンズ物」と呼ばれていたが、現在でもその表現は残っている。
この物件の大きな特徴は債務者の高属性が物件の弱点をカバーするスキームで、客観的には物権と債権が不可分のパッケージとして捉えると理解しやすい。さらに驚くべきことに投資用ローンには珍しく団信が付いており、現在では再現困難な投資スキームであり現債務者のみが享受できるプレミアム収益物件である。
その反面、物権と債権の分離すなわち売買等による所有権移転を行った時点でそのバリューは消滅し、経済耐用年数切れのクズ物件と気化してしまう。
「スルガ物」は下図のように物件評価6割、属性評価4割の担保評価で保全が図られている。
債務者の大部分が取得費用までを含むオーバーローンを組んでいるが、他行が超過部分に添え担保物件を要求する代わりに個人属性を担保提供しているのだから違法ではない。そもそも一生懸命勉学や労働に励んだ人物に対して、属性主義で評価することに問題は無い。間接金融である一般的な銀行は担保主義で融資をし、直接金融であるベンチャーキャピタルは事業主義で投資をする。スルガ銀行が独自の融資ポリシーとして属性主義を謳うことは称賛に値する。
ついでに業者利益が多いと指摘されるかもしれないが、不動産投資をしようとする属性の高い個人を相手にするには相当な労力を要する。連日のように遅い時間まで働き、患者やクライアント、上司に対して気を擦り減らして頑張っている買主と商談する為には、夜間や休日を問わず対応しないといけない。つまり相当なわがまま客である。ちなみに当社のようなプロ向けの業者には到底真似のできない重労働である。しかも自己資金無しで億単位の投資をしたいと言われるのだから、たまったものではない。その対価として利益を得るのは至極当然な行為であると考える。
元々、残存耐用年数が僅かであるが故に安価に流通していた鉄骨造の物件をスルガ銀行の独自評価により34年を60年まで延長することで、30年超のローン期間が実現した。当該スキームはインカムゲインつまりキャッシュフロー重視に組み立てられている為、長期保有してこそメリットが出ることになっている。修繕や賃料維持を考えると不動産投資のプロ視点では信じがたい見込組み立てであるが、実際は初期に取組んだ債務者が2016年以降に転売成功した事例が多数存在する。収益物件市場の拡大で肩代わりする金融機関の出現や低金利、僅かながらでもインフレが進んでいることが要因となった。しかし今後、スルガ銀行と同等のサービス提供ができる金融機関が現れない限り、流通性の乏しい孤立したマーケットとなる可能性は大きい。
昨今、ボラタイルな金融市場に対するリスク警戒感が露わになってきたことで、投資用不動産である「スルガ物」の所有者も売却しようとする動きが目立つが、そもそも稀有なプレミアム物件であることを自覚して欲しい。目先の株式相場と同一視せず、自分の属性を組み込んだ貴重なスキームから生まれた「スルガ物」を最後まで全うしてこそ、その真価を味わえるであろう。仮に道半ばで債務者が他界しても債務を免除された財産を相続人に残せるのだから大した産物である。もう二度と同じようなスキームは現れないかもしれない。